活字好きの本のお話

図書館や大好きな本の話、読んだ本の感想など、駄文で綴ってまいります。

読了しました。


『本当の戦争の話をしよう』(文春文庫刊)を、
や〜〜っと読了いたしました。
ということで、感想をば。


まず、文章体ですけれど、
翻訳者(村上春樹氏)の翻訳スタイルとは関係なしに、
ちょっと慣れるのに時間が掛かりました。
これがティム・オブライエンのスタイルなのか…と、
自分の中で感じ、反芻し、きちんと受け止めるまで、
数日掛かったように思います。
なんというのか…話が先に進まぬもどかしさ、と言いましょうか、
兎に角ぐるぐる同じ所を回るので若干イライラしました。
読み進むうちに、次第とこちらも順応していき、
もしかすると、このグルグル回ることが、
意図して書かれているのではなかろうか…
そんな気がしてきました。


本当の戦争…


こうして見てみる、聞いてみると、
暗く凄惨で悲しい…そんなイメージを思い浮かべます。
特にこの本の舞台となっているベトナムの気候、
湿度が高く鬱蒼としたジャングル、降り止まぬ雨季の雨、
表情を固くした戦場の住人たち、夜の静けさ、そして恐怖…。


しかし、この本にはそういった戦争そのものの描写はとても少なく、
主として、同じ小隊で戦った兵士たちの姿を描いています。
戦争ですので、勿論、死と隣り合わせです。
中には命を落とした者達も居ます。
でも、著者がここで彼等の事を書くことで、
生きかえる、いえ、今でもそのまま生き続けているような、
そんな錯覚を覚えます。
というか、死はあくまで一瞬の出来事、
ある者は肉片となり、ある者は糞尿の沼に沈み、
ある者は助かる夢を見ながらこの世を去りました。
しかし、この本の中では、いつまでも輝かしい存在のままです。


たまたま彼等は、ベトナムという戦場へ赴き、
そこを舞台として、色んな事を経験しながら、
敵と、天候と、己と戦い続けました。
本当にそれは偶然としか思えない…。
人はそれぞれ、色んな所であらゆる物と戦い、
それを少しずつ克服していき、成長を遂げる。
ただ違うといえば、戦場とはいわば狂気の世界。
とても非日常的なことに間違いありません。
戦う事が現実であったとしても、
そこで起こる何もかもが、非現実的に感じられたことでしょう。
そこから逃避するため、薬に溺れねばならなかった。
正気と狂気の境をさまよい続け、人間性を失う者もいたでしょう…
ベトナムから帰還した兵士たちのその後の人生も、
やはり戦いの連続ではなかったでしょうか。
ボロボロになった身体と心、厳しい世間の批判…。


戦争に関する映画を観たり、書籍を読んだりするたび、
何の為に戦って、一体何が残るのか?と言うことを考えます。
実際に戦う者たち1人ひとりの人生にとって、戦争は、
奪い去ることだけして、何の足しにもならない。
有史以来、そういう愚かな事を人間は繰り返しているんだ…
としか、私には思えないのです。


本当の戦争は、きっと勝ち負けはない、そして誰も傷つかない。
何故なら、戦う相手は自分自身だから。
この本は、各々の内なる戦いを描いているんじゃないかな…
そんな気がしてなりませんでした。


(2010年3月30日記載)