活字好きの本のお話

図書館や大好きな本の話、読んだ本の感想など、駄文で綴ってまいります。

落語を”読む”


私の好きな文庫に、ちくま文庫があります。
実に内容が多様で、面白い文庫シリーズでして、
出版社の方には申し訳ないんですが、
正直、売れ筋…とは言い難い、しかし、
好きな人には堪らない文庫と言っていいと思います。
恐らく、出す側も、そういった嗜好なんだとは思いますけど。


この文庫独特、と言って良いのかな…
落語を文字に起こしたものがあります。
有名な落語家の全集と言う形で出版されています。
私も数ある落語集の中で、古今亭志ん朝氏のものを読みました。


まさにあの落語口調の起こしですので、
物語・お話として読むには、いつもと調子が違います。
やはり語り口調… 最初は違和感があります。
しかし、志ん朝氏の姿や声、座の雰囲気などを思い浮かべつつ、
じっくり読み進んでいくと、自分の頭の中にちょっとした寄席が生まれます。
その中で次々と演目が披露される…
自分ひとりの寄席と思いきや、
他のお客さんの笑い声まで聞こえてきそうな、
そんな錯覚を覚えます。


なんとも不思議な文庫です。


実姉が大の落語好きで、幼い頃よりTVの寄席は拝見していました。
実姉にとって、やはり落語は”聞くもの”。
私が文庫で落語を”読んでいる”と告げると、
なんで落語と文字で接しようとするのか? 間違っている、と、
早速厳しく意見されました。


私自身、それ程詳しくはなくとも、落語を”聞く楽しみ”は知っています。
落語家の声、しぐさ、間の入れ具合で演目は何倍にも魅力を増します。
そこが落語家の技術・力量の見せどころです。
しかし、紙の上の文字で現れたとき、試されるのは
話の構成、簡潔さ、巧みな言い回しなどです。
それでどれだけ読者を笑わせるか、
どうれだけ読者の想像力をかき立てるか、って所だと思うのです。
TVで見、ラジオで聴いた彼の演目も確かに凄い、
しかし、これが2次元のものになったとしても、
その魅力は全く衰える事はなかった… これはもう感服しました。


以前、海外旅行に行った際、この文庫を持参しました。
機内での時間つぶしになるかな…と思って開いてみたら、
何のことはない、そんな時間つぶしなんて滅相もない、
猛烈に楽しい一時で、長いフライトが短く感じられました。
それどころか、1冊読破してしまったし…。


たまには次元の異なった形で、伝統芸能を楽しむのもいいもんです。
TVの時間も決まってる、寄席に出向く機会も少ない、
ならば文庫で…って方法も、いいんじゃないでしょうかねぇ…おまぃさん(苦笑)


(2010年4月6日記載)