活字好きの本のお話

図書館や大好きな本の話、読んだ本の感想など、駄文で綴ってまいります。

色んな意味で好き

つい先ほど読了しました1冊、こちらです。


夜の樹 (新潮文庫)

夜の樹 (新潮文庫)


カポーティの作品と初めてであったのは『草の竪琴』でした。
あのちょっと幻想的な、柔らかい感じの作風…
それを踏まえて次に手にした『冷血』の全く異なったタッチに、
随分と驚かされた… それが彼への私が持つ感想です。
『冷血』は当時の文壇にも衝撃的だったようですから、
私がショックを受けるのも当然だろうとは思いますが。


今回手にした『夜の樹』という短篇集は、
幻想的な要素の強いものが大半でした。
そして都会の中で感じる孤独や、
自分の中に潜む別の自分…といった、
内向的な部分が多く取り上げられていたように思います。
カポーティの生い立ちや、作家として成功した後の生活など、
以前より知ってはいましたが、
触れていく作品の数が増えれば増えるほどに、
カポーティ自身が抱えていた孤独感や、
小さい頃の記憶や、もっと潜在的な部分のものが、
作品の端々に散りばめられている気がしてなりません。
特に、彼がゲイである点は、文章のタッチだとか、
主人公の視線だとか、もっと色んな点で影響を与えていると思います。
耽美主義…とまではいかない彼の文章体も、
自然の美しさの描写や、女性の外見や肉体の描写(露骨なものではない)は、
やはりゲイらしい(と言ったら変かもしれませんが)柔らかさや、
美への賛美、といったものを感じました。


大体、好きなんですよ、耽美主義の作品達。
三島や谷崎、ワイルドあたり…。
差別的な意味でなく、ゲイの持つ独特な感じ方、描写、美意識が凄く好きです。
日頃、自分では気付かないこと、見えないもの、感じないもの、
そういう事などを敏感に、そして猛烈に繊細な描写で訴えてくる。
それに酔いしれるのが、とても幸せ。
カポーティの作品にも、その酔いしれる事の出来る部分が少なからずあります。
幻想的、怪奇的ともいえるものもあります。
それらが良い具合に混ざり合って、気持ちよく、読み手の想像力を刺激してくれます。


加えて、”古きよきアメリカ”の姿がそこにはあります。
作品の舞台が田舎であろうが、都会であろうが、
それほどの喧騒を感じるわけでもなく、
時間がゆっくりと流れ、その流れを人々が感じつつ暮している、
そんな幸せな時代のアメリカが綴られています。


自分が気に入っている色んな要素が少しずつ合わさっているカポーティの作品。
短篇集だと、これまた凄く美味しい思いをしたような気分になります。
この『夜の樹』の最後に収められていた『感謝祭のお客』にあった、
食卓の上に所狭しとならぶ朝食のように、
どれに手をつけても満足感一杯、そんな1冊でした。


耽美主義が出た所で、次はこちらを開いています。


痴人の愛 (新潮文庫)

痴人の愛 (新潮文庫)


こういうの、好きなんです、ほんと。