活字好きの本のお話

図書館や大好きな本の話、読んだ本の感想など、駄文で綴ってまいります。

もうちょっとで


はい、やっとこさっとこ、『怒りの葡萄』を読了いたしました。


読了後、すぐさま感想を書いてやるぞ〜〜〜〜!


と、自分自身かなり意気込んで、
クライマックスの部分を読んでみたんですが…


『はぇ?』


と、しばし呆然…
かなり唸りながら、迎えた結末を必死に考えました。
噛み砕いて噛み砕いて、じっくり味合わねば、
本当にもうちょっとで消化不良を起こしそうな、
そんな結末だったわけです。


主人公(と思われた)ジョード家の長男・トムは、
殺人の罪で服役後、仮釈放されて家へ戻れば、
土地も家も奪われ、家族総出で夢の地・カリフォルニアへ。
持てる限りの家財道具と総勢13人を乗せたオンボロ車は、
西へ西へと向うわけですが、
その間に祖父母が亡くなり、弟が1人で姿を消し、
何の縁か旅の友になった元説教師ケーシーは、
トムの罪をかぶって警察に逮捕され、
妹の夫コニーは身重の嫁を残して失踪するし…。
家族がバラバラになる、食糧は底を尽く、
やっと見つけた仕事は実はスト破りでジレンマに陥る、
賃金は引き下げられ、更なる苦境に立たされる…


とまぁ、悲劇の連続なわけです。


釈放された元説教師ケーシーは、
実はストライキを引き起こした張本人として追われる身…
偶然にもトムと再会するのですが、追っ手に見つかり、
トムの目の前で命を落としてしまいます。
そして、トムが今度は目覚めるんです…


恐らく、彼は民衆を率いていく立場になっていくかと…
しかし本編では全くその後の彼には触れていません。
明るい兆し…そういうのが全くこの本編にはないんです。


残されたジョード家の7人は、豪雨に見舞われ、
家財道具も車も何もかも失ってしまいます。
豪雨の中で産気づいた妹の子供は、死産…
しかし、母となった妹の体は、
新しい命を育む如く、準備をしていました。
つまり、このひもじさの中でも、乳が張ったわけです。


豪雨の中、必死に逃げ、たどり着いた小屋の中で、
飢えで死に掛けた男性に、乳を含ませる妹…。


少しずつ色んなものを失って行きながら、
しかし生きる事をやめない、逆に更に意識していく人々、
何もない中でも、命が燃えているのを感じました。
勿論、燃え尽きてしまった者も沢山居たでしょう。
恐らく、生き残るべくして生き残るものを、
もしかすると神は篩いにかけたんじゃないか…と。


果実の実る豊かな台地に、
自分たちの家を、土地を、仕事を、夢を見つける為に、
大勢の人達が命懸けでやってきました。
そこにあったのは、絶望と、貧しさと、飢え…
どう足掻いても、富むものは更に富み、
貧しいものは益々貧しくなっていく… その理不尽さ。
夢の大地に甘い果実は実らず、
怒りの果実しか実らなったわけです。


あの当時の、農民の厳しい状況を描いた作品、
しかし、今でもその片鱗はアメリカの地に残っています。
本当かどうか定かではありませんが、以前、
世界一貧富の差が激しい国はアメリカだ、と、
どこかで聞いた事があります。
これが本当なら、
『アメリカよ、お前は何をしてきたのだ?
 足元をしっかり見よ!』
と言いたくなります。
この作品が、いつまでも人の心を打つのは、
単に過去の姿というわけでなく、
今、この時代にも通じるものが多く含まれているからではないかと、
そんな事が心を過ぎりました。


しかし…人間は強いのですね。
何もない所でも命を繋げる事が出来る。
怒る気持ちがあれば、まだまだ生きてゆける。
怒らずとも、奮起するのは、
生きていく糧、生きている証拠なんでしょうね。


怒りの葡萄 (上巻) (新潮文庫) 怒りの葡萄 (下巻) (新潮文庫)


(2010年3月11日記載)